月下独酌〜Dr.Heartの独り言〜
李白の詩 『月下独酌』 は、李白が独り 月と自分の影を相手に杯をあける姿を描いています。
ここ伊豆下田では、目の前に拡がる海と波の音を話し相手に月見酒。 そんな気分で Dr. Heart 笹木院長が語るコーナーです。
月下独酌(5) 「ハートサロン “高原の森” ご紹介」
 当院は、心臓病・高血圧症・脳血管障害などの循環器疾患を中心とした外来診療を行っています。 こうした循環器疾患の患者さんの多くは、初診後数ヶ月で安定した状態が得られます。 しかし、病状が安定していても、道路事情や、バス・電車などの交通機関の不備から、日常の通院に不便をきたしている患者さんは沢山います。 自力歩行が困難で、病院の送迎バスなどの手段においても通院が難しい患者さんもいます。 こうした現状を考慮して、当院では、伊東・東伊豆方面の患者さんのために、サテライト 『ハートサロン “高原の森”』 を伊豆高原に設けました。 身体の不自由な患者さんに通院してもらうのではなく、医療スタッフが、患者さんの家の近くにまで出向いて診療を行うもので、外来診療と在宅医療の中間的な環境となります。

 このサテライトは、 病状が比較的安定しており
    - 体力的に通院が困難な患者さん
    - 通院の交通利便が悪い患者さん
    - 複雑な検査があまり必要でない患者さん
などに利用していただける環境で、将来的にはテレビ電話による遠隔診療も計画しています。
8月8日オープン予定ですが、実際の診療は、8月27日(火)から行います。

(お詫び:医療僻地における救急医療体制に関する私見は後日述べたいと思います。)
[2003年7月23日]
月下独酌(4) 「救急医療を考える」
 救急医療の良否は救急患者の救命率で評価されます。 この救命率に影響を及ぼすものに、救急患者さんが医療機関まで搬送される時間的距離(アクセス)と、高次医療機関へ搬送されるまでの応急処置(プレホスピタルケア)があります。
  伊豆半島はその道路事情から高次医療機関までのアクセスは悪く、陸上搬送には限界があります。 ヘリコプターによる空路搬送が期待されますが、ヘリコプターは天候によって飛行できない場合もあり、その上日本のヘリコプターは有視界飛行が殆どで夜間の空路搬送は不可能です。 伊豆半島の救急医療にとって“アクセス”を克服することは絶望的です。 したがって、高次医療機関までの“プレホスピタルケア”を向上させることが最も重要なことになります。
  再三言及しますが、救急医療の三大疾患は、脳卒中と心臓発作、及び大量出血が伴う重度な外傷です。 これらのプレホスピタルケアには迅速かつ的確な診断と治療が必要です。 下田にも24時間365日にわたってプレホスピタルケアが出来得る医療施設の開設が望まれますが、高額な医療設備や高い医療技術をもつ医療スタッフが必須条件になり、下田には不可能のように思われます。 しかし、これにも解決策はあります。 次回これに関する私見を紹介したいと思います。
[2003年5月31日]
月下独酌(3) 「地域医療を考える」
 都会に比べて人口が少ない地域での医療機関は、設備の面でも人材の面でも大きな制約をうけます。 生死を争う救急疾患の最も多いものが「脳卒中」と「心臓発作」であることは、都会・田舎に変わりはありません。 当然ながら、これらの救急疾患に対応すべき脳外科や心臓外科には、高度な医療機器と豊富なスタッフが必要です。 しかしながら、実際に脳外科チームや心臓外科チームの配備をするためには、数十万人の人口のある環境でないと採算はとれないのが現状です。 わが国の医療の「非」採算部門は“僻地医療”と“救急医療”である、と言えますが、現実問題として医療といえども採算性を無視して経営が成り立つはずはありません。 人口の少ない地域での救急医療の充実には徹底した費用対効果を考えることが必要なのです。
脳卒中の初期治療を決定するのはX線CTです。 また、心臓発作の救命には、不整脈のコントロールと適切な血圧維持が必要です。 脳卒中や心臓発作の急性期を乗り切るための最低限の医療機材・最少限の医療スタッフの配備をどう整えるかが、問題の本質です。 高額な医療器械には一定の補助金制度が検討されるべきでしょう。 また医療スタッフの整備には、大学病院や高度医療機関からの交代制の人材派遣システムも一つの回答でしょう。 離島や無医村などの僻地医療に限らず、人口数万人の市町村に対する地域医療の充実にも、脳疾患・循環器疾患の専門医の人材派遣システムの制度化が期待されるのです。
[2003年4月23日]
月下独酌(2) 「心臓移植、地域医療、そして災害医療へ」
心臓外科医を自分の職として以来、長年専門機関で心臓移植研究に取り組んできました。
しかし研究所や大学病院、国立病院などの高度医療機関で働いていると、最前線の医療二ーズや患者の心理がわからなくなっていくように思われます。 また脳死の理解、臓器提供のチャンスがこんなに少ないのは、医療現場において日常の医療を行う中での十分な説明が足りないせいでもあると思われます。
そんな思いから伊豆にやってきましたが、ここで遭遇した眼前の医療二ーズが 「日常の救急医療の充実」 と 「災害時の医療体制」 でした。 そこから災害医療に必要な医療構造の研究を始めました。 臓器移植の社会的定着に求められる医療構造と、災害時の救急医療を充実させる杜会構造は多くの点で共通するものがあります。 そして災害医療をより効果的なものにできるシステムが定着すれば、日常の救急医療も円滑なものになると思います。 また災害医療における医療資源の適正配分の知恵は、日本の医療構造全体を考える知恵でもあると思います。
臓器移植を社会的に定着させるような医療構造を突きつめていって、災害医療にまで話が大きくなってしまったというのが本音ですが、高齢化の進む下田の町では、まさに今、老人医療と救急医療そして災害時の医療の充実が期待されます。
微力ですが、ここでの努力が日本全体の医療構造を考え直すきっかけになれば、と大それた夢を持ち続けています。
[2003年3月27日]
月下独酌(1) 「伊豆下田で暮らす」
伊豆の自然に魅せられ、終の棲家として、平成6年に下田クリニックを開業しました。
当院では、心臓病だけでなく高血圧症や脳血管障害などの、循環器疾患全般の診療を行っています。 日常の診療の他に救急医療も行っていますが、その中で最も多いものは、急性心筋梗塞や重症心不全などの“心臓発作”と、脳出血や脳梗塞などの“脳血管障害”です。
心臓発作や脳血管障害の最終的な治療には、高度な医療機材と優秀な医療スタッフが必要です。 下田にはこうした疾患に対応できる高度医療機関はなく、一時間以上かけて天城越えをしなければなりません。 当院ではこうした救急患者さんの救命処置を行い、病状の安定が得られた時点で安全に高度医療機関に患者さんを搬送するよう心がけています。
とはいうものの、患者さんが下田で安心して生活するためには、生死にかかわるような心臓発作や脳血管障害を起こさないよう、日頃から病気に関する正しい知識をもって自己管理する必要があります。 掛りつけ医とよく相談して、必要あればあらかじめ脳血管造影や心臓カテーテル検査を行うことで、病状の悪化や病気の急変を予知・予防することもできます。 掛り付け医との相談から、食生活、適当な運動、適切な薬の服用など、自らの生活を管理することは、下田で安心して暮らすための必須条件と思います。
[2003年3月01日]
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